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食用バラ「さ姫」との出会い。花屋さん発、朝摘みのバラが香る「ヒビヤカダンスイーツ」―前編ー

NPデパート探検隊 特集

食用バラ「さ姫」との出会い。花屋さん発、朝摘みのバラが香る「ヒビヤカダンスイーツ」―前編ー
古来より多くの女性たちに愛されてきた花、バラ。その天然の香りにどこまでもこだわり誕生した、見た目も麗しい「ヒビヤカダンスイーツ」朝摘みローズコレクション。その誕生までのストーリーをお届けします。

1872年に創業し、1950年に会社が設立された日比谷花壇。東京・日比谷公園に大きな店舗を構えていることもあり、その名を一度は耳にしたことがある方も多いと思います。そんな日比谷花壇がスイーツの商品開発をしているのをご存知ですか?

 

朝摘みのバラをふんだんに使った3種類のフラワースイーツ「ヒビヤカダンスイーツ」朝摘みローズコレクション。専用の特設通販サイトにて2013年12月にクリスマス期間限定として、2014年1月にバレンタイン期間限定として発売された後、4月から本格販売が開始され、いつでも注文できるようになった商品です(専用サイトはこちら)。女性ならば思わず心がときめいてしまう、見た目も華やかなスイーツが誕生するまでのお話を日比谷花壇の皆さんに伺いました。

 

まず誰もが思うであろう"なぜ、お花屋さんがスイーツを?"という問いに答えてくださったのが広報室・横井理恵さん。

 

「お花を飾って、見て楽しんでいただく、気持ちをお花に込めて贈っていただくというところで、これまでいろいろなかたちを日比谷花壇では提案してきていました。その中で、いままでお花にあまり関心がなかった方にも興味を持ってもらいたいというところもありまして。お花に関心がなくても、スイーツが好きな方はたくさんいらっしゃるじゃないですか? そういった方にもお花に関心を持っていただき、ゆくゆくは"本物のお花も楽しみたい"と思ってもらえるようにしたいと考えたのです」

「ヒビヤカダンスイーツ」朝摘みローズコレクション。左より『花咲くローズマカロン』、『花咲くローズロール』、『花咲くローズチーズタルト』。一番人気は、バラが香るクリームを巻くスポンジに、深紅の花びらをちりばめたローズロール。
「ヒビヤカダンスイーツ」朝摘みローズコレクション。左より『花咲くローズマカロン』、『花咲くローズロール』、『花咲くローズチーズタルト』。一番人気は、バラが香るクリームを巻くスポンジに、深紅の花びらをちりばめたローズロール。

これまでも企業とコラボレートして花柄のレギンスパンツや眼鏡フレームをつくったり、入浴剤などの香りの共同プロデュースをするなど、お花の販売以外も手がけてきた日比谷花壇。しかしお菓子づくりというのは、まったく初めての企画。「最初は社内でも食品の取り扱いに対する反対意見もありました」と語るのは、ヒビヤカダンスイーツの開発を手掛けるギフト開発事業部・堀内容子さん。

 

「社内で説得できるように、リサーチや素材集めを最初はすごくしました。食品問題がニュースとして取り上げられることがいまは多いので、“安全で安心して食べられるものを提案していきたい”という気持ちもありましたね」

 

しかし完全にゼロからのスタートということもあり、企画当初は困難の連続で、まず最初に直面したのが素材探しの難しさ。「最初の試作品は天然の香料や素材を使っていなくて」と教えてくれたのは同じく開発を手掛けるシニアデザイナー・石井千花さん。

 

「バラのスイーツもあったのですが、芳香剤みたいな香りで。社内でも評価してもらえませんでしたし、何より私たちが納得いかなくて。そこで根本から考え直そうということになったんです」

 

「全国の食用のお花を探したり、フルーツの花を食べられないか、色々とリサーチしました」と、堀内さん。

 

「これまでの仕事上、切り花のお花の生産者さんは知っていたのですが、食用と切り花では生産がまったく別で。食用の花を探すにしても生産者さんとのつながりがまったくなかったので、まずはこの“素材となる花を見つける”という山を乗り越えなければいけませんでした」

 

誰もが納得できるスイーツの素材となる花がなかなか見つからないなか、さまざまな食品展示会を巡っていたふたり。そこで出会ったのが、島根県奥出雲にある「奥出雲薔薇園」で生産されている『さ姫』という食用のバラでした。

真っ赤な大きな花を咲かせる『さ姫』。一輪分の花冠には、30枚近くもの花びらが。
真っ赤な大きな花を咲かせる『さ姫』。一輪分の花冠には、30枚近くもの花びらが。

10年にわたる品種・栽培技術の研究開発を経て誕生し、有機肥料を使い無農薬で育てられている希少な品種のバラ『さ姫』。食材としての安全性もさることながら、堀内さんと石井さんの心をつかんだのは、その香り。

 

「香りの広がり方がまったく違うので、ビックリしました。これまでも香りのいいバラは身近にありましたが、『さ姫』の香りの豊かさは、特別でした」と石井さん。かつてない香りのバラと出会った堀内さんと石井さんは、実際に奥出雲農園へ足を運ぶことに。

 

早朝に東京を出発し、自然に囲まれた農園へと到着したふたりの目を奪ったのが、のびのびと咲き誇るさ姫の姿でした。

 

「切り花用のバラは、規則正しく真っ直ぐ育てないといけない上に、つぼみの時点で 収穫されますが、さ姫は大きな花を広げたときが収穫どき。しかも思い思いの方向に本当にのびのびと自由に咲いていました」と堀内さん。

島根県大田市に位置する奥出雲薔薇園の畑。自然に恵まれており、奥に写っている山を越えると海が広がっているのだそう。さまざまな神話が息づく地で育まれたバラと聞くと、なんだか御利益すらいただけそうです。
島根県大田市に位置する奥出雲薔薇園の畑。自然に恵まれており、奥に写っている山を越えると海が広がっているのだそう。さまざまな神話が息づく地で育まれたバラと聞くと、なんだか御利益すらいただけそうです。

温室で育てられることが多い切り花用のバラと異なり、露地栽培されているさ姫。そのバラ園の周りは田んぼとなっており、日本酒用のお米が無農薬で育てられているのだそう。

 

「さ姫は無農薬で栽培されているので極力、虫が出ることを抑えた環境をつくり育てられていて。また土が表に出ていると病気が発生しやすくなってしまうので、育てるときに藁を敷くのですが、その藁もバラ園の周りにある田んぼで穫れたお米の籾殻でできていると聞きました。切り花の栽培とはまったく違っていましたし、自然と共存して栽培されているのを感じましたね」と堀内さん。

根本に敷かれた藁(写真左)と、畑の周りにある田んぼ(写真右)。山のほうからはトンビが、海のほうからはカモメが飛んでくるという、どこか不思議な場所。
根本に敷かれた藁(写真左)と、畑の周りにある田んぼ(写真右)。山のほうからはトンビが、海のほうからはカモメが飛んでくるという、どこか不思議な場所。

花にストレスを与えない環境と、豊かな土壌で手塩にかけて育てられているからこそ、気品すら感じさせる香りを放つと思われるさ姫。しかし、その香りを保つのには、もうひとつの手間がかけられていました。この“ひと手間”と、ヒビヤカダンスイーツが完成するまでのストーリーを後編にてお届けします。

 

⇒詳しくはこちら:HIBIYA KADAN Sweets

 

文・林みき