「お花屋さんだからこそつくれる、フラワースイーツをつくりたい」そんな想いを胸に、自分たちが納得できる素材を探し求めていた「ヒビヤカダンスイーツ」開発チームのスタッフであるギフト開発事業部・堀内容子さんと、シニアデザイナー・石井千花さん。ようやく出会えた香り高いバラ『さ姫』の生産元である島根県の「奥出雲農園」へと、ふたりは足を運びました。
自然に囲まれた豊かな土壌で、有機肥料を使い無農薬で育てられ、のびのびと咲き誇るさ姫。その香りを最大限にいかすべく、一番香りが立つといわれる早朝に一輪、一輪手摘みされます。朝露が残る中で摘まれたバラの花びらは、虫食いがあるものを除きながら仕分けされるのですが、この作業も一枚一枚、手で行われます。そして丁寧に仕分けされた花びらは農園内で冷凍花弁、ローズウォーター、ローズオイル100%の精油などに製造されます。
しかしローズウォーターにしても、大量の花びらからつくられるのは、ごくわずかな量。この貴重な香りを損なうことなく、かつ香りの魅力を最大限にいかせるスイーツの製造方法を堀内さんと石井さんは模索することに。
「焼き菓子にしても、クッキー、フィナンシェ、マドレーヌ、メレンゲ……でも焼くと香りが飛んでしまうので“焼かずにすむ生菓子でできることはないか?”と一緒に開発・製造に携わってもらっているパティシエさんも模索してくださって」と、堀内さん。
また、どれくらいバラを香らせるかにも難しさが。「“香りが強すぎる”という人もいれば“弱い”という人もいて」と石井さん。
「食べるものなので、人によって嗜好がすごく異なるんですよ。もう“どこまで香りを強くしたらいいのだろう……”と、なかなかゴールを見つけられませんでしたね」と堀内さんも苦労を語ります。
香りだけでなく、もうひとつこだわったのが、その見た目。
「店頭で並べて販売するのではなく、ネット上で写真だけを見て素敵だと思え、なおかつバラを感じてもらえるビジュアルづくりにも試行錯誤しました」と話す、石井さん。
「チーズタルトに関しては、パティシエさんに何度も直してもらいましたね。もう厨房とミーティングルームを何度、往復してもらったことか……」
そんないくつもの壁を乗り越え、2年にもおよぶ開発期間を経て誕生したのが、朝摘みローズコレクションの『花咲くローズロール』『花咲くローズチーズタルト』『花咲くローズマカロン』の3商品。
「某有名パティシエの方に食べていただく機会があったのですが、“自分もバラの香りは使うけど、ここまで自然な味わいのものはないですね。よく、こんな味が出せましたね”と言っていただけて。うれしかったですね」と、堀内さん。
2013年12月にクリスマス期間限定で発売された後も、材料となるさ姫の量を増やし、より香りと味わいを楽しんでもらえるようにと改良が続けられたヒビヤカダンスイーツ。当初は注文受付期間が区切られていましたが、お客さんからの好評もあり、今年4月から特設通販サイトで常時注文受付が可能に。とはいえ品質を保つために、受注生産のスタイルのため、注文からお届けまでには8日間の期間を設けられています。
そんなヒビヤカダンスイーツを、よりおいしく味わうコツを訊ねると「どの商品も冷凍状態でのお届けになるのですが、完全に解凍していただくことですね。解凍が完全にできていないと、味わいも香りも感じにくくなってしまうんですよ」と、石井さん。
「解凍時間については私たちも何回も試しました。『全然味がしない!』って大失敗したこともありました」と苦笑する堀内さん。
「冷蔵庫に入れてマカロンなら3~5時間、ロールケーキとチーズタルトなら8~10時間かけて解凍していただければと。一晩くらいかけて解凍いただき、翌日に召し上がっていただくのが理想的です。あと解凍されるとバラの香りが飛びはじめるので極力、密閉して解凍していただけると、ありがたいですね」
香りがデリケートかつ儚いのは、その香りが人工的なものでなく、天然の香りである証。味わいだけでなく、自然の花の香りという部分に徹底的にこだわれたのも、お花屋さんである日比谷花壇がつくるスイーツだからこそといえるでしょう。
「四季を楽しめるのがお花のいいところなので、今後は季節の花を使ったスイーツにもチャレンジしてみたいと思っています。いまは食用のお花を、さらに探している段階です」と、堀内さん。また、たくさんのお客さまから常温の商品も欲しいというリクエストをいただいたこともあり、ジャムや紅茶など既存の3商品とあわせて楽しめる商品の開発も考えているのだそう。
お祝いや記念日に花を贈られて、嬉しいと感じない女性は少ないはず。でも同時に“花を贈るのは、ちょっと気恥ずかしい……”と感じる男性も、決して少なくないと思います。そんな男性にも、ギフトアイテムとして活用してもらいたいヒビヤカダンスイーツ。テーブルに並べたときに広がるバラの香りと味わいが、幸せなひとときにそっと華をそえてくれるはずです。
⇒詳しくはこちら:HIBIYA-KADAN Sweets
文・林みき