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日常がアートになる、アナログフィルムの魅力。インスタントカメラがある暮らし

フフルルニュース

日常がアートになる、アナログフィルムの魅力。インスタントカメラがある暮らし
かつて、写真はフィルムをセットして撮影をし、現像を待つ時間までを一つのプロセスとしていました。指先一つの操作で簡単に写真を撮ることができる今。写真が単なる「記録」になってはいませんか? 70年代に誰もが夢中になった「インスタントカメラ」には、「記憶」を映し出す、何事にも変えられない宝物のような時間が静かに流れていました。
インスタントカメラ
「ガシャン」というシャッター音とともに、カメラから吐き出される写真が特徴の「インスタントカメラ」。その場ですぐに現像できる手軽さと、アナログフィルムならではの風合いに夢中になった人も多いのではないでしょうか。

インスタントカメラが世の中に誕生したのは意外と古く、1940年代にまで遡ります。発明したのはアメリカ・ポラロイド社。創業者であるエドウィン・ハーバート・ランド博士の手によって生まれました。科学者であり、発明家でもあったランド博士は、ある日娘から「どうして撮影した写真がその場で見れないの?」と問いかけられ、インスタントカメラの開発に着手。記念すべき初号機は(写真:右)は折りたたみ式の頑丈なつくり。半世紀以上前のカメラとは思えない完成されたデザインには、現代にも通用するポラロイドのDNAを感じます。
SX-70
1号機の誕生から数十年を経て、70年代には言わずと知れた名器、「SX-70」が誕生。小型の折りたたみ式ボディにピント調整機能や露出補正などの電子制御技術を内蔵しているSX-70は、世界中で話題となりました。
ポラロイドカメラ
1980年代から1990年代にかけてさまざまなモデルが発売されましたが、前カバーを開いてシャッターボタンを押すだけの単純操作で撮影することができる「Polaroid 600」が有名です。日本では結婚式や卒業式などで大活躍でしたよね(写真はデッドストック品をビビッドカラーでコーティングしたもの)。

ポラロイドカメラをこの世から消さないために。不可能を可能とした「インポッシブル・プロジェクト」

ポラロイドカメラ
多くの人を魅了し続けたインスタントカメラの生みの親・ポラロイド社ですが、デジタル化の波にのまれるかのように、2008年にインスタントフィルムの製造を中止することを決定します。ポラロイド社としてのインスタントカメラの歴史は一度、幕を閉じることになりますが、そこにインスタントフィルムの生産継続を嘆願した1人の技術者が現れます。当時、ウィーンのロモグラフィック・ソサエティで主任マネージャーを務めていたフロリアン・キャプス博士です。
ポラロイドカメラ
しかし、着々と製造終了へと向かうポラロイド社。生産継続を訴えるキャプス博士に対し、周囲もまた、「impossible(不可能)」という言葉を放ちます。そんな時、キャプス博士はポラロイド社のクロージングパティーで、運命的な出会いを果たすことに。その相手とは、すでに閉鎖が決まっていたエンスヘーデのポラロイドオランダ工場長のアンドレ・ボスマン。奇しくもオランダ工場の取り壊しが決定されていたその日に、キャプス博士はインスタントフィルムの権利を手にします。

同志とともに立ち上げた会社は、不可能を可能とする思いを込め、「インポッシブル社」と名付けらます。同社はポラロイド社の生産拠点のリースを受け、現存するポラロイドカメラで使用可能な新しいインスタントフィルム製品を開発。現在はヨーロッパを拠点にインスタントカメラ、そしてインスタントフィルムを蘇らせるプロジェクトを遂行中。日本では、株式会社BCCが代理店を担っています。

アナログでしか体験できない「リアル」をその手に

ポラロイド
インポッシブル社が製造するインスタントフィルムは、デジタル写真に慣れた人にとっては扱いにくいと感じるかもしれません。その理由は、当時は使用可能だった薬剤が使用禁止になるなどの理由から、ポラロイド時代と同じ現像液の原料を使うことができないからです。そのため、インポッシブル社のインスタントフィルムは、当時よりも環境の影響を受けやすく、気温や湿度によって仕上がりが変わります。

現像時や保管時の湿度・温度が色合いにも影響を与えるフィルムが織りなすのは「撮ってみないと、わからない写真」。現像時間はモノクロフィルムで5分、カラーフィルムで20分と、撮った瞬間に画面に映るデジタルカメラやスマートフォンとは操作性も異なります。でも、仕上がった写真を手にしてみると、待つ時間をも愛しく思えてくるから不思議です。

でき上がった写真にはその瞬間にしか出会えない「記憶」が刻まれています。言うなれば、インスタントカメラは「誰もが主役になれるカメラ」。何気無い日常がアート作品となり、一期一会の出会いが映し出されていることでしょう。
ポラロイド
"手に響くシャッター音、手のひらの上で浮かび上がるとっておきの瞬間。壁にピンで飾ってみたり、友人と分け合ったりする楽しみ。リアルな形として存在するからこそ、アナログはリアルなコミュニケーションにつながる。"

これは、インポッシブル社からのメッセージ。同社は初めてフィルムをリリースした2010年から、4回以上の大きな品質改良を経て、今もなお、ポラロイド時代の品質を夢見ながら、日々改良を続けています。

20年ぶりに蘇ったアナログフィルムカメラ IMPOSSIBLE「The I-1」

スマートフォンやデジタルカメラの撮影に慣れている人にとって、アナログフィルムは手に取りにくいというのが正直なところ。そこで見つけたのが、ポラロイドの正当なる継承者というべきインポッシブル・プロジェクトからリリースされたアナログフィルムカメラ「The I-1(ザ・アイワン)」です。
IMPOSSIBLE「The I-1」
撮影方法は、本体上部のファインダーレンズから撮影範囲を定め、本体横のダイヤルの中央を押してシャッターを切るだけ。選べるフィルムは「フルカラー」と「モノクローム」の2種類。同じフィルムで撮影した写真も、環境が変わればまったく異なる作品に仕上がります。

ポラロイドの技術を継承しているとはいえ、The I-1は独自の進化を遂げています。フラッシュはLEDライトを環状に並べて使用することで、より柔らかく自然な光を出せるように工夫が施されており、人物写真を撮るのに最適。さらに、iPhone専用のアプリと連動することで、シャッタースピード、レンズの口径、セルフタイマーを調整できるという優れもの。このアプリで多重露光やライトペインティングのような高度な撮影技術も手軽に試すことができます。

The I-1のデザインは、2014年にCEOに就任した、オスカー・スモロコウスキーの感性が随所に生かされています。カメラへの造詣も深い彼は、自ら写真を撮ることはもちろん、カメラの解体や組み立てに必要なスクリュードライバーやピンセット、カリパスは日常的に手元にあります。彼の趣味は写真だけにとどまらず、スウェーデン発のポケットサイズの高機能シンセ サイザー「OP-1 ポータブル シンセサイザー」のクリエイティビティーも楽しんでいるとのこと。実は、The I-1のデザインは、シンセサイザーのデザイナーが手がけているのだとか。ポラロイドカメラのヴィンテージ感に若い感性が加わったことで、インポッシブル社はインタラクティブな動きになりました。
ポラロイド
今までカメラに触れたことがない世代でも操作しやすいThe I-1は、手軽にアナログの世界を体感することができる画期的なアイテムです。カラーフィルムは、約数分で像が浮かび上がり、20分ほどで現像が完了。撮った画像がすぐにスマートフォンの画面に映るのが当たり前の若い世代にとって、写真ができ上がるまで、どんな仕上がりになるか分からないアナログフィルムは、きっと新鮮に映るはず。
ポラロイド
デジタル機器に囲まれた暮らしに、ちょっとくらいの不便を楽しむ余裕を。インポッシブルが守り続けているのは、そんな暮らしのあり方なのかもしれません。

家族の日常や子どもの成長、窓から見える何気ない風景を記憶とともに映し出すインスタントカメラの世界。その小さな世界を手のひらに感じてみてはいかが?

⇒詳しくはこちら:IMPOSSIBLE
文:ねこりょうこ
ライター/エディター/フードスタイリスト
情報誌編集部員を経てフリーランスに。美容、インテリア、フードなど、スタイル提案の記事を中心に執筆。モットーは『食べることは生きること』。
ごはんと動物をこよなく愛し、今日も「おいしい」と「かわいい」を求め、日本全国を取材活動中。
【公式ブログ】ねこ食堂