趣味・こだわり

万年筆の楽しさを手軽に味わう。

NPデパート探検隊 for men vol.11

万年筆の楽しさを手軽に味わう。
日々、ECサイトという“巨大デパート” を探検するこの企画。日本の美意識が生み出したインク。その繊細な色合いにハマる人が続出との噂……。

デジタル全盛の時代だからこそ、もらって嬉しいのが直筆のメッセージだ。手紙に限らず、プレゼントに添えるメッセージカードや、ちょっとしたメモなども含めると、他人に向けて文章を綴る機会はそれなりにあるのではないだろうか。

 

そんな時に使いたいのが万年筆。ボールペンやサインペンも悪くはないが、やはり濃淡のある文字を描ける万年筆には、ほかの筆記具にはない独特の魅力があるのだ。

 

書き心地の良さもたまらない。実際に使ってみるとわかるが、するするとペン先を紙に滑らせる感覚が実に心地よい。気がつけば、自分の名前や最寄りの駅名などを意味もなく何度も綴ってしまうほど。しかも万年筆で文字を書くと、やたら達筆に見える効果もある。たとえ文字に自信がなくても、それが味となるから不思議だ。自分の書いたひと文字ひと文字に愛おしさすら感じられるのだ。

 

とはいえ、なじみのない人には、とことんなじみのないのが万年筆。どれを選べばいいのかわからないという人に、最初の一本としてオススメしたいのが、ドイツのブランド、ラミーの「サファリ」だ。価格が手頃でデザインもよいので、愛用している人も多い定番モデルである。

 

しかし、個人的に「サファリ」にはひとつだけ不満があった。純正のカートリッジインクを使った場合、文字がはっきりと書けすぎるのだ。手帳などにメモをする時にはこれで良いのだが、手紙になると、やはり濃淡のついた文字のほうが断然味がある。

 

であれば、ボトルタイプのインクの中から自分好みのものを選ぶのが良さそうだ。「サファリ」は、専用のコンバーターをつければ、さまざまなインクを使うことが可能になるのだ。

こちらがコンバーター。
こちらがコンバーター。

中でもパイロットの「色彩(いろ)(しずく)」はぜひ試してほしいインクのひとつ。日本の美しい情景から創造された彩り豊かなインクを謳い、色の種類には「露草」、「深緑」、「霧雨」、「冬柿」、「山栗」、「稲穂」など、四季を象徴する言葉が並んでいる。

 

実際に文字を書いてみると、和の心を感じさせる繊細な色合いが実に美しい。絶妙な濃淡からは、万年筆を使っているという満足感を得られるはずだ。ちなみに「サファリ」なら、ペン先は太めのMを選んだほうが、より味のある文字を綴ることができるだろう。万が一色に迷った時は、ぜひ「月夜」を。ほかのメーカーでいうところのブルーブラックに近い色なのだが、より詩的で深みのあるニュアンスに魅了されるに違いない。

 

万年筆を使うことで気づく、文字を書く楽しさや心地良さ。サファリと色彩雫は、それを手軽に味わうのにはうってつけの組み合わせだ。

文・石川博也
1972年静岡県生まれ。エディター・ライター・構成作家。これまでに『TARZAN』『POPEYE』『BRUTUS』『anan』『GQ JAPAN』などの雑誌や、読売新聞のファッションコラム連載、ルノー、ダイハツをはじめとする企業オフィシャルサイトなどに企画、編集、ライターとして携わる。またラジオ番組の構成作家としても活躍中。