百貨店などの衣類品フロアの片隅で販売されているもの -- ひと昔前まで、こんなイメージが強かった靴下。そんなイメージを一変させたのが、『靴下屋』『Tabio(タビオ)』『CHAUSSETTES(ショセット)』など、タビオが手掛ける靴下ブランド専門店。現在では日本・イギリス・フランスの3か国で280近くものショップが展開されていることもあり、靴下がずらりと並ぶショップを見かけたことがある人も多いかもしれません。
「お客様に直接商品の特徴やはきこなしを説明できるように、お店をつくったのが今年30周年を迎える『靴下屋』のはじまりなんですよ」と話すのは、タビオ商品部の佐藤穣次さん。
「1968年にソックスの卸商として『ダンソックス』の名前で創業し、どこの会社にも負けない良い商品をつくっていました。でも洋服屋さんの1コーナーに商品が置かれてしまうので、店員さんに接客をしてもらえなかったらしいんですね。当時、創業者が高級なアルパカ素材を使った靴下をつくったものの、手洗いしなくてはいけないところを洗濯機で洗ってしまったお客様から『縮んでしまった』とクレームが入ってしまって。『これは今後、同じようなことが起きる』ということで卸しをやめて、商品の説明をちゃんとできる販売員さんがいるお店をつくって販売しようということになり『靴下屋』が誕生したのです」
女性が靴の下に履くものといえばストッキングが主流だった30年前は、靴下が“ファッションアイテム”ではなく“実用品”だった時代。その頃からひとつの型で、何色ものカラーバリエーションの商品をつくっていたタビオ。
カジュアルソックスが普及した現在では、1シーズンにつき『靴下屋』ブランドだけで300型、全ブランドだと1000型近い商品を生産。さらに1型につき少なくとも6色は展開するので、総計すると6000アイテム近くもの商品がつくられているのだそう。
そして驚くことに、そのほとんどが日本国内で生産されています。
<大量生産=海外の工場で生産>という流れが主流の中、タビオが“Made in Japan”にこだわり続けている理由のひとつが臨機応変な独自の生産システムの実現。これは店頭の売れ行きに応じて、1足単位で即座に補充するというシステムで、国内生産だからこそできるのだそう。
「世の中にまだパソコンが普及していないオフコン(=オフィスコンピューター)の時代から、このシステムをタビオでは導入しています。北海道から沖縄、ヨーロッパまでの店頭から毎日届く注文状況、物流の在庫状況、店頭の売れ行き状況が瞬時にわかる仕組みになっているので、この情報を毎日読みながら全品番を生産調整していっています。このシステムができて、もう約25年は経っていますね。できた当時は通産省から賞をいただいたり、“日本の繊維業界の最先端企業”とメディアに取り上げていただきましたね。あとタビオのネットワークシステムを勉強したいと、ハーバード大学から人が来たりもしました」
タビオの社内にはシステム構築をする部署もあり、技術の進化と共に情報をより精密に見れるようになっているのだそう。
多くのアパレルメーカーが見込み生産というかたちをとり、よほどのことがない限り追加生産をしないなか、手間ひまを惜しまずに1足単位で靴下を補充するタビオ。その姿勢の根底には、利益を上げることよりも、タビオの商品を選んでくれたお客さんに満足してもらえることを重要視する、ものづくりとしてのまっすぐな想いがあることが伝わってきます。
そしてタビオが“Made in Japan”にこだわる最大の理由が「品質」。創業以来、良質な靴下をつくり続けているタビオですが、その品質の高さのあまり起きた珍しいエピソードを商品部の佐藤さんが教えてくれました。
「2002年、イギリスのロンドンに初めて出店したときは半年ほど苦戦しました。初めての海外進出だったこともあり、現地の方々に極力安く商品を提供したいということで価格を日本の1.4~1.5倍、日本円にすると1足あたり1000円強に設定したのです。ところが、お客さんからは『品質も良くて、日本製。なのにこの価格は安過ぎて、おかしい。偽物なんじゃないか?』と疑われてしまったんです。イギリスの百貨店ブランドの靴下は1足2000円くらいなので、それとほぼ同じか少し安いくらいの価格に上げたところ『品質も良いし、この価格は適正だ』と、ようやく認めてもらえました。2009年にパリに出店したときは、イギリスでブランドが定着していたこともあり現地に浸透するのは速かったですね。」
日本だけでなく、ヨーロッパでもその品質を認められているタビオの靴下。上質な靴下が、どんな現場でつくられているのかを後編にてお届けします。
文・林みき 写真・後藤武浩
Tabioオンラインストア