コラム

「mother tool」後編

別冊コロカル 第9回 栃木県足利市

「mother tool」後編
マガジンハウスのwebマガジン『コロカル』と連動し、全国のすてきなお店を訪れます。今回は、アルミ加工の産地、足利の技術を生かした新しいプロダクトを発信する、「mother tool」へ。

ゼロからはじまった、ものづくり。

栃木県足利市に店を構える「mother tool」は、石畳歩道が風情ある、まちの一画にある。あたたかな光がさしこみ、広々としたワンフロアの店内には、オーナーの中村実穂さんが選んだ日本のプロダクトが丁寧に並べられている。

 

そのなかには、mother toolオリジナルのプロダクトも。中村さんが、お店をオープンしようと考えたのも、このオリジナルプロダクトにお客さんが実際に触れたり、使ってみたりする機会を設けるためだった(詳しいオープン経緯は前編参照)。

オーナーの中村さん。
オーナーの中村さん。

隣まちの群馬県邑楽町にある、親の組み立て工場を継いでいた中村さんは、自社のオリジナルのプロダクトをつくりたいと考えた。そこで相談したのは、現在mother toolの共同プロデューサーを務める、家具デザイナーの村澤一晃さん。中村さんが専門学校「ICSカレッジオブアーツ」に通っていたときの先生だ。

 

「でも、学生のときは教わったことなかったんです(笑)。当時は家具デザイナーとして活躍されていた村澤さんに、mixiでコンタクトをとったんですよ」

村澤さんがデザインした宮崎椅子製作所の椅子。mother toolには、ほかにも手の届く価格帯の同社の椅子を揃えている。
村澤さんがデザインした宮崎椅子製作所の椅子。mother toolには、ほかにも手の届く価格帯の同社の椅子を揃えている。

生産現場との直接的なワークショップを重ねながらデザインすることを大切にしている村澤さん。中村さんの話を丁寧に聞いてくれ、そして、「まずは、一緒につくってくれる工場を探してみましょう」と。

 

そう言われた中村さんは、とにかく行ったこともなかった足利の工場を訪ね歩いた。「実は、足利はアルミ加工の生産地だったんです。これを生かせないかと村澤さんと相談しました」(中村さん)

 

世界有数の航空機メーカーと評されることが多い「中島飛行機」の製作所が近くにあり、足利市周辺には戦時中飛行機の部品をつくっていた小さな工場が多く、その流れで、今もアルミ加工を得意とする小さな工場が残っていた。

左下にあるのが最初につくったアルミのゴミ箱。
左下にあるのが最初につくったアルミのゴミ箱。

アルミ加工とひとえに言っても、分業制がとられている。まず中村さんが訪ねたのは、「山岸工業所」。山岸さんが得意としていた技術は「ヘラ絞り」と呼ばれるもの。ひとつひとつ、手作業で平らなアルミをヘラで押しあてながら、ろくろのように回してかたちを整えていく。その後、アルミのサビ防止加工をする「丸信金属工業」へ。アルミ本来の強度を強固にし、プロダクトの質を高めてくれるのだ。

 

ひとつひとつ、確かな技術でつくられるアルミ加工に、徳島県の「テーブル工房 kiki」の木工技術が加わり、ゴミ箱やカードケースなど、ステーショナリーを中心にmother toolのプロダクトシリーズ第1弾「アルミと木」のシリーズ7製品がつくられた。

スエードのようなやさしい手触りの人工皮革。もともとソファーや電車の座席などに使用されているもので、その端切れを使ってキーホルダーに。デザインは中村さんの夫、室橋俊也さん。
スエードのようなやさしい手触りの人工皮革。もともとソファーや電車の座席などに使用されているもので、その端切れを使ってキーホルダーに。デザインは中村さんの夫、室橋俊也さん。

「欲しいと思ってもらえるもの、長く使えるものを、適正な価格で、適正な量で生み出していきたいなと思っていたんです。並行して運営していた組み立て工場は、すごいスピードでものすごい量をつくっていて、しかも時期がくれば廃棄されてしまうプラスチック製品。やりがいをどこに感じればいいかわからなかったんですね。だから、職人が生きて、使った人もうれしくなるようなきちんとしたものづくりの仕組みを整えたかったんです」

 

と話す中村さんは、地元の町工場のつくり手と、デザイナー、そして遠方の木工所をつなぎ、さまざまなプロダクトを少しずつ生み出していった。

ステンレスの曲げの技術を得意とする「藤光(とうこう)製作所」の洗濯ばさみと、mother toolで一緒につくったメモクリップ。
ステンレスの曲げの技術を得意とする「藤光(とうこう)製作所」の洗濯ばさみと、mother toolで一緒につくったメモクリップ。

中村さんは、mother toolのオリジナルプロダクトとして、地元の工場とデザイナーをつなぎながら、店では、プロダクトを通して、つくり手とお客さんをつなげる。

 

「工場の職人さんのご家族もお店に遊びに来てくれるんですが、これお父さんがつくっているんだよって、娘さんがうれしそうに話してくれてうれしかったですね。丁寧につくられているものには、小さなこだわりや苦労がたくさんあるんですよ。できるだけそれを伝えていきたいと思っています」

 

もちろん、それは、セレクトしているプロダクトも変わらない。自分もものづくりに携わるからこそ、それぞれの技術に込められた尊敬の念が中村さんの言葉から溢れてくる。mother toolに足を運べば、足利の産業や、そこに隠されたものづくりの面白さを教えてもらえるはず。

コロカルでは、mother toolの工房を訪ね、地元の工場とつくるモビール「tempo」について取材しています!

⇒くわしくはこちらをどうぞ:COLOCAL

 

 

文・塚原加奈子 写真・渡邉有紀

mother tool

【住所】 栃木県足利市昌平町2352-1 【電話】 0284-43-3354 【営業時間】 12:00〜18:00 水曜休※不定休あり

http://www.mothertool.com/mise/