コラム

「mother tool」前編

別冊コロカル 第9回 栃木県足利市

「mother tool」前編
マガジンハウスのwebマガジン『コロカル』と連動し、全国のすてきなお店を訪れます。今回は、歴史あるまち並みが続く、石畳の路地に佇む「mother tool」を訪ねました。足利のものづくりも一緒に発信しています。

足利から、日本各地のものづくりを発信

埼玉県、茨城県、群馬県の県境のエリアに位置する栃木県足利市は、都心からも車で1時間半という距離にある。

 

足利市の観光のメッカとされる、国の史跡「鑁阿寺(ばんなじ)」などが並ぶまちの一画に、ショップ「mother tool」はある。復元されたという風情ある石畳が続く路地は散策をするのも楽しそうなエリアだ。

店の右側にある路地には石畳が続いている。小さいお店が数軒並んでいる。
店の右側にある路地には石畳が続いている。小さいお店が数軒並んでいる。

重厚な石や瓦屋根など、レトロな雰囲気をまとうmother toolの外観。もとは足利で人気のうなぎやさんだったのだそうだ。

 

「石畳が気に入って、このエリアで店舗を探していたんです。この辺は車移動が主になってしまって、実はあまり徒歩で散策できる場所がないので、いいなと思っていて。たまたま、知人づてにこちらの物件が空くと紹介してもらい、いいご縁でしたね」とオーナーの中村実穂さん。隣まち、群馬県の邑楽町(おうらまち)で育ち、現在は足利市に住んでいる。

mother tool店内。
mother tool店内。

実は中村さん、プラスチックや鉄工の組み立て製造の経験を持つ。もともと、邑楽町で親が始めた工場だそうだが、この店内からは想像がつかない話だ。

 

「パチンコの組み立てが多かったですね。プラスチックの細かい部品が送られてきて、台を組み立てるんです。あとは、車の細かい部材ですね。運転席と助手席の間にある小物入れの蓋とか……」

 

そんな中村さんが、お店を始めるまでの経緯はとてもシンプル。「なんとかして、この受注作業を辞められないか」ということ。そこで始めたのがオリジナルプロダクトをつくること。そのアンテナショップを兼ね、足利市にセレクトショップを2009年にオープンしたのだ。

 

「でも、最初はまったくお客さんが来なかったですね(苦笑)」(中村さん)

ブックカフェ「C&B」の伊部さん(左)と中村さん(右)。
ブックカフェ「C&B」の伊部さん(左)と中村さん(右)。

せっかくお店を開いたのに、客足が伸びない。そんなときに協力しあったのは、たまたま同時期にお店を開いていた同世代の店主たち。mother toolから歩いて10分くらいのところにあるブックカフェ「C&B」の伊部勝之さんもそのひとり。お互い足利が地元ではないが、お客さんに店を紹介し合ったという。

 

少しずつ地元の人にも認知されていったり、ファンが定着していったりして、お店を軌道にのせてきた。

長野に工房を構える、「studio prepa(プレパ)」のグラス。
長野に工房を構える、「studio prepa(プレパ)」のグラス。

mother toolの店内には、オリジナルプロダクトのほかに、日本で丁寧につくられている家具や、器、プロダクトが並んでいる。ほとんどが、展示会などで出会い、共感するものづくりをしていた方々だという。

 

長野県の駒ヶ根郊外を拠点とする、ガラス工房「studio prepa(スタジオ プレパ)」もそのひとつ。中村さんは長野の工房を訪ね、吹きガラスの技法を用いてひとつひとつ手作業でつくられていく過程にとても感動したのだそう。mother toolでは、現在パステルカラーが可愛らしいグラスを取り扱っている。

肌にやさしい超長綿を織り込んだ「絹+綿(けんとめん)」のガーゼてぬぐい。汗をふいても、ストールのように首に巻いても素敵。
肌にやさしい超長綿を織り込んだ「絹+綿(けんとめん)」のガーゼてぬぐい。汗をふいても、ストールのように首に巻いても素敵。

「このガーゼてぬぐいをつくる『絹+綿(けんとめん)』は、mother toolに通ってくれるお客さんから教えてもらったブランドなんです。天然繊維同士を組み合わせて織る織屋さんです。この縦糸と横糸の色の組み合わせはmother tool オリジナルなんです」

 

足利市は、古くから織物のまちの歴史を持つ。明治以降は大規模な工場も増え、東京へもアクセスしやすい位置にあった足利市は、「着道楽の桐生、食道楽の足利」と言われていたほど。繊維業を担う問屋たちの商談の場としても、まちは栄えていたのだそう。たしかに、まちを見渡すとその名残を彷彿させる昭和レトロな看板が多く見られた。

 

「繊維業の拠点は、海外へと移ってしまったので、大きな工場はもうなくなりましたが、現在も小さなメーカーさんやつくり手の方がいます。絹+綿もそのひとつ。繊維業のまちの歴史は彼らから教わりました。このガーゼてぬぐいは本当に触り心地がいいですよ。実は某有名ブランドのストールも手がけているくらい技術あるメーカーさんなんです」

 

もとは、自社ブランドのアンテナショップとしてオープンしたmother toolのお店だが、地域のショップと協力したり、地元の歴史を知るきっかけになったりとさまざまな出会いも生まれている。後編では、mother toolのオリジナルプロダクトについて詳しく!

コロカルでは、mother toolの工房を訪ね、地元の工場とつくるモビール「tempo」について取材しています!

⇒くわしくはこちらからどうぞ:COLOCAL

 

 

文・塚原加奈子 写真・渡邉有紀

mother tool

【住所】 栃木県足利市昌平町2352-1 【電話】 0284-43-3354 【営業時間】 12:00〜18:00 水曜休※不定休あり

http://www.mothertool.com/mise/