くらし

多くを語らぬノートたち

新スタンダード講座「アンティークの楽しみ」vol.4

多くを語らぬノートたち
“一点もの”との出会いを多く経験している「antiques tamiser」の吉田昌太郎さんから、“もの”との出会い、つきあい方を学びます。最終回は「文房具」。

思い入れのある文房具を尋ねたところ、店内にある3種のノートを持ってきてくれた吉田さん。「必要なものや、必要な条件のみで作られた、ごくシンプルなノートです」と紹介してくれました。

 

シンプルなデザインが好まれる時代となった今日、私たちは"意識的に"シンプルなものを作り出そうとしますが、昔の何も情報がなかった時代に、必要最低限の機能を残し、余分なものを削ぎ落したこのノート。そんな"自然なシンプルさ"が吉田さんのお気に入りなのだと言います。

 

「ただのノートなんですけど、創造力をかきたてますよね。これにメモしたりスケッチしたり。旅先でデッサンしたら立派なスクラップブックですよ」

 

白いページに一筋ペンが走った瞬間、別の価値を持ってしまうアンティークのノートですが、アンティークスタミゼで販売されていたこのノートたちは未使用品。1950年代に製造されたものだそうです。

日常使いのBLOC NOTES

淡い水色と赤みのあるオレンジ色のBLOC NOTESは、ベルギーのものだそう。「メモ帳」と呼ぶにはおしゃれすぎる、でも、確かに1950年代に日常使いされていた格好つけていないノートなのです。

 

日に焼けて少し黄ばんだ表紙は愛嬌があります。表紙の書体も嫌みのないシンプルなものですが、文字下の装飾には個性あり。「この控えめな装飾がスパイスとしてきいてますよね」と吉田さん。

 

この装飾の紋様にどのような意味があるのか、60年経った今では知る術はありません。なぜならば、このノートにはメーカー名が記されていないのです。そんなちょっと不思議なノートが、数々の品を見てきた吉田さんの、お眼鏡にかなった文房具なのです。

細部に美しさが光るORDER BOOK

レストランでオーダーを受けたウェイトレスが、このORDER BOOKを使っているところを想像してみてください。きっと、お客さんから受けたオーダーをこのノートにさっと殴り書きをするのでしょう。

 

多少乱暴に扱われてもいいように背表紙は布で補強されていて、表紙と裏表紙はBLOC NOTESよりも厚い紙を使用しています。

ページには1ページずつ番号がふられていたり(またこれが手作業らしく可愛らしい!)、罫線ありと罫線なしのページが用意してあったり、本紙と裏表紙の間にはカーボン紙のような薄紙が挟まっていたりと、細部の作り込みやそのアイデアが素晴らしいのです。

シンプルなデザインのなかにある使用した感じの良さや手にした人の所作の美しさに、昔の人は気づいていなかったかもしれません。

 

「良いものは時代を経てもずっと良い」というのがアンティークの基本。たくさんのものに囲まれて多くの情報を得られる現代でも、そんな基本を思い出し、自分の身の回りのものや身につけるものを振り返ってみるのも、たまには良いかもしれませんね。

 

 

文・海老原悠 写真・ただ(ゆかい)

講師プロフィール

吉田 昌太郎さん
アンティークスタミゼオーナー/1972年東京生まれ。2001年港区元麻布にてアンティークスタミゼをオープン。2005年恵比寿に移転。2009年には栃木那須塩原市(旧 黒磯)にて、tamiser kuroisoをオープン。独自な視線で集められた様々な国の生活道具が店内に並べられている。住宅、店舗の空間デザインも手掛け、独特な世界観をまとめた著書「antiques tamiser scrap book」を出版。その他、糸の宝石(共著)がある。『antiques tamiser』 住所/東京都渋谷区恵比寿南2-9-8 落合荘苑ビル101 TEL/03-3792-1054