住んでいる人も知らない、練馬クラフトを発信中。
新宿駅から電車に揺られて30分ほど。石神井公園駅のほど近くに、クラフトギャラリーと日用品のお店、「knulpAA(クヌルプエーエー) gallery」(以下クヌルプ)はある。
店内には、素朴で実用的な国内外の雑貨や、工芸品が静かに並んでいる。工芸品は、栃木や神奈川、そして石神井公園近辺を拠点とする作家のものも。練馬区や杉並区に工房などを構える作家さんがいることに少し驚く。
「練馬区は、23区内といってもローカルな文化圏なんじゃないかな」と話すのは、オーナーの町田顕彦さん。もともと輸入代理店に勤めていたが、縁があった益子へ通ううちに日本のものづくりに魅了され、2003年に自分のお店を開いたという。
「栃木県の益子を訪ねたときに、笠間の陶芸家、額賀章夫さんの作品を見て “あー、なんてきれいなんだ”と驚いたんです。古くさいと思っていた陶器に惹かれてしまった。伝統工芸品だけれど、現在のライフスタイルにも合うよう、デザインされたプロダクトを扱ってみようかな……と、お店を始めました」
町田さんにとって、都心で店を出すことよりも、自分が生まれ、今も住む練馬のまちで店を構えることのほうが自然な流れだった。
実は、現在のお店は、2013年9月に再オープンしたばかり。以前の店舗はビルの老朽化で、撤退することになってしまい一旦閉めていたが、縁あって、また練馬でお店を構えることができた。
内装は、町田さんの弟で、益子を拠点に活動する建築家の町田泰彦さんが手がけている。床は、細かい石がドット模様のように可愛らしい洗い出し仕上げ。白い壁を基調としながら、棚や建具に古材が使われ、やわらかい雰囲気の店内。そのひとつひとつと調和するように、町田さんが選んできた工芸品や、雑貨がそっと置かれている。
「“いつ再開するの?”“場所決まった?”なんて、常連客の方や知り合いに声をかけられるとうれしかったですね。そんなみんなの思いに後押しされるように、ここで『続ける』ということを改めて考え、再スタートをきりました」
「お店のコンセプトは、続けていくうちに、作家さんから教えてもらったり、影響されていったことが多いんです」
とりわけ、地元・練馬や、その周辺を拠点とするつくり手を取り扱っているのは、お店を始めて数年経ってからだと言う。
さまざまな人が行き交うお店という“場”について意識させられることが多くなった町田さんは、最初は自分のお店のことだけで頭がいっぱいだった。しかし、少しずつ店が軌道にのると、自分の店のある地域へと視野が広がっていく。そこで、練馬周辺の作家さんを探し始めた。
「最初から練馬の作家さんをたくさん知っていたわけではないんです。自分で調べて会いにいったり、お客さんやつくり手さんが教えてくれたり。つくり手のことや、普段住んでいる人が知らない練馬の素晴らしいところを見つけていくのは、面白いですね。練馬は、野菜の直売所もあったりして、自然農の農家さんがいたりするんですよ。見えにくくなっているけど、まだまだ自然とのつながりが残っています」
石神井公園の近くに工房を構えているという陶芸家の桜井寛之さんも、町田さんから訪ねていった作家のひとり。「焼き上がると、お店へ持ってきてくれるんですが、並べたそばから売れてしまうことも多いですね」
そんな、クヌルプと作家さんとの距離感もまたいい。
町田さんは、地元商店街の集まりなどにも参加してみたこともあったのだという。しかし、どこか共感できる部分が少なかったそう。そこで、身近にいる写真家の方や絵描きの方と、地元のフリーペーパーをつくることに。そして、次は、練馬区で「井のいち」というクラフト市までも開催する。
お店を開いたことがきっかけで始まった、地元に根ざしたクヌルプの営み。町田さんのその後の活動については、後編で詳しく!
>>コロカルでは、クヌルプで取り扱っている、神奈川県の「中津箒」のものづくりの現場を訪ねています。
⇒詳しくはこちらをどうぞ:COLOCAL
文・塚原加奈子 写真・橋本裕貴
knulpAA gallery
【住所】 東京都練馬区石神井町1-21-16 【電話】 03-3996-8533 【営業時間】 11:00〜19:00 不定休※HPでご確認ください