デザインで、企業の技術力を魅せる。
大阪市にある「prideli graphic lab.」は、デザイン会社「OPUS DESIGN inc.」(以下オプスデザイン)がプロデュースする、ものづくりの実験場をコンセプトとしているショップだ。1点ものの雑貨や文房具などをセレクトする一方で、「made in west」のアンテナショップとしても機能する。
made in westとは、オプスデザインと関西の企業が新しいものづくりにチャレンジするプロジェクト(発端は前編を参照)。3年ほど前にオープンした東急ハンズ梅田店の企画展示に合わせてスタートし、つくられたさまざまなプロダクトたちは、いまもロングセラーとなっている。
「オプスデザインがmade in westを進めていくうえで大切にしたことは、つくり手、デザイナー、売り手の三者のバランスを保つこと。つくり手となる企業を主役としながら、売り手である東急ハンズの要望を加味する。そのなかで、シンプルでありながら、企業さんたちの特色を最大限に生かせる商品を模索しました」と話すのは、made in westのマネージャーを務める神崎恵美子さん。
例えば、泉州タオルの老舗「神藤タオル」とつくったのは、既存のサイズとは異なる「バスタオル」。しかも素材は2重でもなく、3重でもない「2.5重タオル」と、ちょっと聞き慣れないもの。
ちなみに、大阪府の南西部の「泉州」と呼ばれるエリアは、愛媛の今治と並ぶタオルの産地。明治以来、蓄積されてきた技術がいまも優れたタオルをつくりだしているのだ。
「泉州タオルで何かプロダクトをつくりたいと思って、カタログを開いて目にとまったのが『2.5重タオル』でした。スタッフと、“これは何だ!”ってなって(笑)。昔ながらの泉州タオルは知っていたけれど、最新の知識はなかったんです」
その後、関係者を通じて、2.5重タオルをつくる神藤タオルと知り合い、泉州タオル、2.5重タオルについて学んだオプスデザイン。素材の良さと生産効率、そして、実際のユーザーの使いやすさを追求した。
最終的に生まれたのが、フェイスタオルよりも少し大きいMサイズのバスタオルと、タオルケットにも使えそうな少し大きいLサイズのバスタオルだ。既存のサイズだと少し物足りないというスタッフの素朴な意見から調整し、カラーも漂白に近い白を選んだ。泉州タオルの良さは、吸収力と速乾性。不純物を取り除けば取り除くほど、吸収力が高まるからだ。
「端切れをもらって試したんです。そしたら、わずかな差だけれども、真っ白なタオルの吸収力のスピードが早かったんですよ」
ガーゼのようにやわらかい触り心地なのに、タオルくらい丈夫。薄手だから、持ち運びにも便利で、東急ハンズで販売したときから人気の商品になった。
「神藤タオルで、この2.5重タオルを開発したのは、次世代の担い手である現社長のお孫さんだったんです。“自分の発案を、より多くの人に知ってもらうことができた”と驚きながらも喜んでくれているのがうれしいですね」
他にも、made in westのプロダクトが生まれるまでは、語り尽くせないストーリーがたくさんある。写真プリントの技術を持つ「松尾捺染株式会社」とつくった「パントート」や、くつ下の産地として知られる奈良県の「ヤマヤ」とつくったカラフルなオーガニックコットンのくつ下、プラスチックを製造する「高宮産業」とつくった、パステルカラーのアクリル製「key-holder」など、既存の技術を生かしながらも、ちょっとユニークで他にはない商品を生み出していった。
「いいものをつくって数万円というのではなく、品質の高いものをどう日常の価格に落とし込んでいけるか。そして、企業さんの特徴をどうしたら最大限生かせるか。工夫のしどころなんです。単にコストダウンを考えても、続けていくのは厳しくなってしまいますから」(神崎さん)
かわいいとか、おしゃれだとか、カタチだけにとらわれず、つくり手の企業にメリットが還元されていくしくみづくりが大事。そんなオプスデザインの考え方を、神崎さんはこう続ける。
「オプスは、デザインがどう企業と寄り添うべきかと常に考えてきました。企業にデザインが浸透していくほどに、企業が成長していくということをポリシーとしています。デザインは目的ではなく手段。だから、私たちを活用してもらいたいという考えがあるんです。prideliで扱う雑貨や、今回のmade in westのプロジェクトも、商品が売れることだけではなく、デザインをとりまく環境を変えるための布石をいかに投じられるか。そんなことをいつもスタッフと話し合っています」
それが、prideli graphic labがものづくりの実験場と言われる所以なのだ。
手探りのなか、関西の企業とともに模索し続けているmade in westのものづくり。東急ハンズ梅田店だけではなく、現在は全国のセレクトショップでも取り扱いが決まり、それは、想像以上の反響となっている。神崎さんに、そんなmade in westの今後について、思いを伺った。
「せっかく始めたことなので、途絶えさせたくないですね。とはいえ、シーズンごとに新商品を開発していくというよりは、もっともっと、関西圏の企業との出会いを広げていきながら、一緒にブランドを成長させていきたい。素晴らしいものづくりをしている企業は、兵庫、奈良、和歌山にもまだまだあるんですよね」
>>コロカルでは、made in westと一緒にものづくりした、奈良県の「ヤマヤ」の工房を訪ねました。
⇒詳しくはこちらをどうぞ:COLOCAL
文・塚原加奈子 写真・嶋本麻利沙
prideli graphic lab.
【住所】大阪市中央区南船場2丁目4-19【電話】06-6125-1488 【営業時間】11:00〜19:00(月火水は休み)