コラム

「カネイリミュージアムショップ6」東北工芸品があつまる素敵な空間 後編

別冊コロカル 第4回 宮城県仙台市

「カネイリミュージアムショップ6」東北工芸品があつまる素敵な空間 後編
全国のすてきなお店をめぐり、マガジンハウスのwebマガジン『コロカル』と連動してご紹介する『別冊コロカル』。工芸品やアート本など、東北の文化を発信する「カネイリミュージアムショップ」の後編です。

新しい工芸の可能性を模索する場として。

「せんだいメディアテーク」1Fに店舗を構える、「カネイリミュージアムショップ6」は、デザイン・アート・建築に関する書籍や文房具とともに、東北の伝統工芸品を扱うショップだ。店名に入っている「6」は東北6県を表している。

 

工芸品コーナーには、東北地方の工芸品が、各県別にボックスにまとめられ、ディスプレイされていた。そのひとつひとつをつくっている職人のところへ、足を運び交渉を重ねているという。

「東北の伝統工芸品と言っても、たくさんの職人がいます。セレクト基準は、とても悩むところです。僕が大切にしているのは、自分が共感できるかできないかという視点。一緒に商いをしていくわけですから、生計をともにするということにもなります」と、このショップを営む「金入」の副社長・金入健雄さんは話し、青森県八戸市でつくられてきたという「八幡馬(やわたうま)」について教えてくれた。

中央の白い八幡馬がカネイリオリジナル。各6800円。
中央の白い八幡馬がカネイリオリジナル。各6800円。

八幡馬は日本三大駒のひとつに数えられる民芸品。また、郷土玩具としては最も古いものと言われている。かつて、武士たちの弓術を奉納する神社のお祭りを見に来る人のためにつくられたおみやげ品だったのだそう。

カネイリオリジナルの八幡馬を製作してくれたのは、(株)八幡馬の高橋利典さんだ。彼は、これまでにも伝統工芸という枠にとどまらない八幡馬をつくっている。もともとは、材料として用いなかった千代紙を使ってみたり、八戸名産の食用菊「阿房宮」やうみねこをモチーフにした柄を帯に入れたりと、日々工夫を重ねているのだ。

「だから、新しいデザインの八幡馬にも、かなり意欲的になって取り組んでいただきました。高橋さんの工房へ行くと、気さくに色々話してくれて楽しいんです。工房の雰囲気とか、使い古された道具とか、本当にカッコいい」

青森の伝統工芸である「裂織(さきおり)」。もともとこたつ掛けとしてつくられていた柄を使ってデザインしたオリジナルのステーショナリーシリーズ。
青森の伝統工芸である「裂織(さきおり)」。もともとこたつ掛けとしてつくられていた柄を使ってデザインしたオリジナルのステーショナリーシリーズ。

デザインを担当したのは、八戸出身のデザイナー田名部敏文さん。金入さんは「八幡馬を、今の若い人が惹かれるようなものをつくってもらえないか」と田名部に相談。そして、できあがったものが、白をベースにパステルカラーで塗られたカネイリオリジナル版。北欧の木のおもちゃのような雰囲気が、八幡馬の魅力をさらに引き出した。

そんなふうに金入さんは、新しいデザインを提案しながら新しい工芸品の可能性を職人とともに模索しているのだ。

「もともと職人さんは、新しいものをつくりたいと思っていると思うんですよ。技術に対して貪欲というか、いつも面白そうに話を聞いていただいている気がします。じゃあなんでいままでできなかったかというと、そういう場がなかった。だから新しいものをつくるときに『ショップ』という機能はとても大きな役割を持っていると思うんです。どこでどう売っていくか。僕は職人さんが新しいものに挑戦できるような土壌づくりをしたいと思っているんです」(金入さん)

中央の段に並んでいるのは、奥から宮城県の堤焼(つつみやき)の器と仙台の砂を使ってつくられた仙台ガラスのコップ。
中央の段に並んでいるのは、奥から宮城県の堤焼(つつみやき)の器と仙台の砂を使ってつくられた仙台ガラスのコップ。
左から、オリジナル漆塗陶器の、轆轤目(ろくろめ)黒色漆杯、轆轤目溜塗杯、朱漆杯(各10500円)。
左から、オリジナル漆塗陶器の、轆轤目(ろくろめ)黒色漆杯、轆轤目溜塗杯、朱漆杯(各10500円)。

青森県の伝統工芸品・八戸焼(はちのへやき)に、津軽塗の職人が漆を塗った、オリジナルの漆塗の陶器でできた杯は、金入さんが職人同士を引き合わせて、生まれた商品だという。

「10年も前からふたりは知り合いで、ずっと“一緒にものづくりをしたいね”と話していたんだそうです。でも、売り場所も無いしそれをすすめる人もいなかったんですよね」

そこへ、金入さんが、八戸焼の渡辺真樹さんへ八戸らしいプロダクトをつくれないかと提案。渡辺さんと話していると、縄文時代にもつくられていたという、陶器に漆を塗る「陶胎漆器(とうたいしっき)」というアイデアが出てきた。八戸は縄文文化と歴史が深い場所。

「だったら、津軽塗の職人の斉藤和彦さんを誘って、一緒につくってみようという話になりました。斉藤さんもちょうど、おみやげ品では実現できない漆の本質を見つめ直すような作品をつくっていきたいと思っていた時期だったようで、意気投合ですね」

シンプルな形のシルバーに津軽塗を施したリング。津軽塗を学んだ若手クリエイターの島守宏和さんによる「LANDPROTECT」というブランド。リングは各25,200円(税込)。
シンプルな形のシルバーに津軽塗を施したリング。津軽塗を学んだ若手クリエイターの島守宏和さんによる「LANDPROTECT」というブランド。リングは各25,200円(税込)。
宮城県は鳴子を中心に、こけしの産地でもある。
宮城県は鳴子を中心に、こけしの産地でもある。

「僕は、もともと職人さんが考えていたことや、チャレンジしてみたいと思っていたことを引き出しているだけで、職人さんと一緒に、いまの感覚にも合うようなプロダクトを考えている。何百年も続いてきた伝統のなかに、何かこれまでと違う新しさを見い出している姿は共感できるし、そういう職人さんは本当にかっこいいなって思います。そんな風に考えている職人さんたちと、これからも一緒に東北のものづくりを見つめていきたいですね」

そう話す金入さん、実は今年『東北STANDARD』というwebサイトを立ち上げた。ミュージアムショップで扱っている職人さんや、岩手県の奇祭「けんか七夕」などを紹介し、さらに東北についての知識を深め、広く発信していきたいのだという。

アートやデザインなど、時代の先端をいくような新しい表現を発信するミュージアムショップだからこそ、東北の文化と工芸品の魅力が広く伝えられる。そこには、まだまだ新しい可能性が眠っていることを金入さんは教えてくれる。

コロカルでは、金入さんの東北STANDARD立ち上げ秘話などをまとめています。

⇒くわしくはこちらをどうぞ:COLOCAL

 

 

文・塚原加奈子 写真・奥山淳志

カネイリミュージアムショップ6

【住所】宮城県青葉区春日町2-1 せんだいメディアテーク1F【電話】022-714-3033【営業時間】10:00~20:00 第4木曜休

http://www.kaneiri.co.jp/shop/