おでかけ

ベルトをめぐる、小さな小さな話。

NPデパート探検隊 for men vol.6

ベルトをめぐる、小さな小さな話。
日々、ECサイトという“巨大デパート” を探検するこの企画。長く愛用していたベルトに別れを告げ、新しく出会った1本は……?

今年は国内外で台風が甚大な被害をもたらしている。私も大雨のせいで小さな小さな不幸があった。雨に濡らしてズボンのベルトが壊れちゃったというお話だ。

 

駅からの帰り道。突然のどしゃ降り。傘はない。行くか戻るか、どこかへ雨宿りに駆け込むか。ええい面倒くさい、ほんの数分の道のり、濡れてまいろう。どうせ帰ってシャワーを浴びるのだ。

 

シンギン・イン・ザ・レイン。

 

幸福な人は雨を楽しく感じる、というのは淀川長治先生の文章か何かで読んだのだったか? とりたてて幸福でもない私だが、クソ暑かった今年の夏の話なので、雨に濡れても心地よかった。『雨に唄えば』のジーン・ケリーのように軽やかなステップではないものの、私はずぶ濡れをよしとして家路へ駆けたのだった。

 

家に着き、濡れたTシャツを脱いで洗濯機に叩き込みながらもウンザリというよりは、むしろ「ヒャッハー!」と、ふなっしー的な奇声を発しそうな、高揚した気分だったと思う。しかし、ジーパンを脱ごうとベルトに手をかけた時、一気にテンションが下がった。革のベルトもじっとりと濡れてしまっていたのだ。

 

しまった、どうしよう......と呻吟・イン・ザ・ハウス。水を吸った革製品も適切な処置をすれば救えるらしいが、革用のクリームなど私の家にはない。

 

結局、濡れたベルトはそのまま干しておいたらカチカチに固まり、伸ばそうとしたらベキッと折れた。

 

かくして、もう20年近く愛用していたサドルレザーのベルトと私はお別れすることになった。長年使い込んでアメ色になり、愛着のあるやつだったのだがなあ、さらば友よ。

 

いや、感傷的になるほどのことでもないのだが。たかがベルト一本という話の小ささも申し訳ないが、そもそも、この件は私の不注意が悪いので、雨のせいなどにしてはいかん。反省しろ、俺。

 

ともかく、新しいベルトが必要だということでネットを探した。やはり前と同じようなサドルレザーのベルトが欲しい......と検索したのだが、なかなか手頃な値段のが見つからない。そんなに上質な革を求めたりしていないのだが、私には私のこだわりがある。

 

何と言うのでしょうか......バックル部分がギザギザ金具で留まっているだけで、取り外してベルトの長さを好きに切って調節できるやつ......アレだけは嫌なのだ。なんか本物感がないし、たまに外れちゃうことあるし。

 

ところが、バックル部分が固定されている形でサドルレザーのベルトを探すと、かなり高価な商品しかネット上では見つけられなかったのである。

 

しょうがない、そのうちアメ横にでも行って探すか......と思っているうちに数ヶ月。いいかげんベルトなしでジーパンをズリズリさせながら穿いてるのも困ったもんだぞ......って、お前はベルト一本しか持ってなかったのか?そうなんです。ジーパンにしっくりくるのは他に持ってなかったのです。

 

もうサドルレザーじゃなくていいから、とにかく一本買わなけりゃ。というので選んだのが今回の商品。

 

お値段そこそこで、ダブルリング式でフリーサイズだからネットで買ってもサイズの心配なし、ということで決めました。ウォッシュド加工だから雨にも強い?かどうかは分からないけど(いや、ベルトは雨に濡らしちゃいかん)。正直、間に合わせのつもりで買ったのだが、意外としっくりきていて、このまま愛用しそうな気がする。長くつきあうヤツとの出会いは、意外にそういうものだったりするのだよなあ。

文・黒住 光
ライター・脚本家。雑誌『TARZAN』『SPA!』などで映画レビュー、コラムなど執筆。脚本作品にドラマ『まほろ駅前番外地』、アニメ『おでんくん』『美肌一族』『ズモモとヌペペ』など。共著に『SF宇宙映画の逆襲』『裸のシネマ』など。元・日本美女選別家協会会員。