コラム

旭川セレクトショップ「Less Higashikawa」後編

別冊コロカル 第5回 北海道東川町

旭川セレクトショップ「Less Higashikawa」後編
マガジンハウスのwebマガジン『コロカル』と連動し、全国のすてきなお店を訪れます。世界中の素晴らしい生活雑貨を集める北海道のライフスタイルショップ「Less」。後編では、昨年オープンした東川店を訪ねました。

東川町から、暮らし方を提案するセレクトショップ。

北海道のほぼ中央に位置する東川町は、大雪山連峰の旭岳の麓にある人口約8000人の小さなまちだ。旭川の中心地から車で20分、旭川空港からも車で10分ほどと、比較的アクセスしやすい立地ながら、自然豊かな環境に囲まれている。

 

その豊かさを物語るように、東川町の生活水は、なんと100%地下水。大雪山の雪解け水が地下から豊富に湧いていて、全国でもめずらしい上水道が無いまちなのだ。

ブロック型の窓がモダンな外観は昔のままだという。紅葉した街路樹が並ぶ美しいまち並みにとけ込むように佇む。
ブロック型の窓がモダンな外観は昔のままだという。紅葉した街路樹が並ぶ美しいまち並みにとけ込むように佇む。

そんなまちに生まれた、浜辺 令さんは、「いつか生まれ育ったまちで “衣食住”にまつわるセレクトショップをオープンさせたい」と考えていた。それは「この自然を楽しむライフスタイルを提案する」ことにもつながってほしいとも。

 

そこで、まずは旭川でショップを開き(前編参照)、続いて昨年、東川町に「Less Higashikawa」をオープンさせた。

Less Higashikawaの店内。右手にあるアンティーク風の黒い机は、もともとあった木の事務机を黒く塗装したもの。店の奥にある、薪ストーブのやわらかい暖気が店全体を包み込む。
Less Higashikawaの店内。右手にあるアンティーク風の黒い机は、もともとあった木の事務机を黒く塗装したもの。店の奥にある、薪ストーブのやわらかい暖気が店全体を包み込む。

お店は、もともとまちの碁会所だった建物をリノベーション。

 

「取り壊してしまうと聞いて、それはもったいないと思って。外からの佇まいがすごく気に入っていた建物だったんです。だったら、僕がここで店を開こうと思って。長い時間を刻んできた建物には、新しいものにはない魅力があると思うので」

 

ナチュラルな風合いのなかにも、どこか工場のような無機質な空間がかっこいい。

ナチュラルな木肌が絶妙な棚(左)は、浜辺さん自らつくったもの。右手の棚には、デザイン性とクオリティーの高い生活雑貨を提案する、新潟の「エフスタイル」のプロダクトが並ぶ。
ナチュラルな木肌が絶妙な棚(左)は、浜辺さん自らつくったもの。右手の棚には、デザイン性とクオリティーの高い生活雑貨を提案する、新潟の「エフスタイル」のプロダクトが並ぶ。

東川店には、国内外を問わず、浜辺さんがセレクトしてきた“衣食住”の“衣食”のものが揃う。ひとつひとつ丁寧に選ばれ、このお店にやってきたのが、ディスプレイからも伝わってくる。

 

まず入口を入って右手にあるのは、瓶詰めやパスタなどの食料品と、キッチン雑貨。北カリフォルニアのバークレーで、ジューン・テイラーさんがつくっているというジャムは、5年ほど前に浜辺さんが食べて感動したという逸品だ。

 

「果実の味がまるごとジャムになっているようなフレッシュな味わい。スパイスやハーブが効いていて甘いものが苦手な人にもオススメです」

 

古代小麦を使ってつくられているという乾燥パスタの「BAIA PASTA」も、アメリカのもの。小麦本来の味わいが濃厚で、オリーブオイルと塩だけで食べてもおいしいという。

上・ターク社のフライパンと、下・「ワンキルン」の器。
上・ターク社のフライパンと、下・「ワンキルン」の器。

キッチン雑貨の棚には、150年間、変わらない鍛冶職人の技法でつくられているというドイツ・ターク社のフライパンや、鹿児島市に拠点を置く「ワンキルン」の器などが並ぶ。どれも、機能性を追求しながらも、シンプルなデザインにそぎ落としたような雑貨だ。

愛知県の尾州地域で織られている「ORIGINAL blend」ウールストール(18900円)。
愛知県の尾州地域で織られている「ORIGINAL blend」ウールストール(18900円)。

続いて、入口左手の棚から奥にかけては、ウィメンズとメンズの衣類やアクセサリーが置かれている。ほとんどが、日本国内生産を基盤としたブランドだ。

 

例えば、「commono reproducts」というブランドは、愛知県一宮市を中心とした「尾州」と言われるエリアでつくられている。ここは、日本の毛織物生産の約70%を占める繊維産地で、地場産業を生かした商品が展開されているのだという。取材に訪れたときは、秋冬のストールが入荷されたところだった。

フランスのケルベルカンパニー社の「Bird call」という商品。さまざまな鳥の鳴き声になるという木の笛。山へ持っていって試してみたくなる。そんな環境がここにはある。
フランスのケルベルカンパニー社の「Bird call」という商品。さまざまな鳥の鳴き声になるという木の笛。山へ持っていって試してみたくなる。そんな環境がここにはある。

確かな製法でつくられる、スタンダードなデザインの衣類や雑貨は、世代を問わず、流行にも流されずに、ずっと活躍してくれそうなものばかり。それらは、都心のようなめまぐるしいスピードに追われていない、美しい自然に囲まれているこのまちだからこそしっくり馴染む気がする。

 

「でも、このまちの魅力は、ここに来てくれる東京の友人や海外の友人たちが“いいね”と言ってくれることで、自分たちも再確認できているというのが正しいですね。正直、売り上げ自体はまだまだです(苦笑)。でも、時間をかけてじっくりこのまちに根づいていけたらいいと思っています。ものが動かないであろうこんな田舎で、本質的に素晴らしいものが売られている。そんな店に近所のおばちゃんがフラっとストールを買いにきたりするようになったらいいな。そうやって、近い未来を想像するのが、いまのモチベーションですね」

2Fのカフェスペース「ON THE TABLE」は東京を拠点とする「ランドスケーププロダクツ」が手がけた。カウンターと、中央にはロングテーブルがあり「みなで囲む食事はいっそういいものになる」という思いをこめてランドスケーププロダクツの中原慎一郎さんがデザインしてくれたものだという。
2Fのカフェスペース「ON THE TABLE」は東京を拠点とする「ランドスケーププロダクツ」が手がけた。カウンターと、中央にはロングテーブルがあり「みなで囲む食事はいっそういいものになる」という思いをこめてランドスケーププロダクツの中原慎一郎さんがデザインしてくれたものだという。

たくさんの出会いのなかで、見つけてきた素晴らしいものたち。今後はもう少し“東川らしい”ものや、“旭川らしい”ものも取り入れていきたいと浜辺さんは言う。

 

「旭川は、木の家具づくりがさかんなまちだけれど、ほとんどが道外に向けた高価なものが多い。地元のひとにも使ってもらえるような、オリジナル家具をつくれたらいいいですね。東川町のほうは、野菜をつくっている友人たちがいるから“ファーマーズマーケット”のようなものも開きたい」と、浜辺さんからは次から次へとアイデアが出てくる。

 

そのひとつひとつを、浜辺さんが実現できる日もそう遠くはないはずだ。

『コロカル』では、Lessでも取り扱いのある独楽をつくる、川の木工芸 笹原を訪ねました!その模様はこちらからどうぞ。
「ものづくりの現場 木工芸 笹原」

 

 

文・塚原加奈子 写真・渡邉有紀

Less Higashikawa

【住所】北海道上川郡東川町南町1-1-6【電話】0166-73-6325【営業時間】11:00~19:00 水曜休(ON THE TABLE[2F]【電話】0166-73-6328【営業時間】喫茶/食堂 11:30~19:30 第1・第3火曜、水曜休 酒場(金・土・日のみ)19:00~24:00)

http://wallbyless.blogspot.jp/