毎日の生活をもっと楽しくするために
北海道旭川市の中心地から車で10分ほどの住宅地。目の前には、スーパーがあったり、小さな飲食店が立ち並んだりと、地元のひとが毎日車で通るような、決して派手ではない、生活圏エリア。
地方都市なら、どこにでも見られるような風景だが、そんな場所に店を構えるのが、「Less Asahikawa」。
「“もの”を通して、暮らし方の提案をしたかったんです」と話すオーナーの浜辺 令さんは、旭川市の隣まち、東川町出身。もともと旭川市内の洋服のセレクトショップで働いていたが、北欧家具好きが高じて、いまのお店をオープンしようと決心。まずは買いつけと、見聞を広げるため単身、ロンドンへ。
ロンドンを拠点に、数ヶ月間北欧やヨーロッパの主要国へも足を運んだ。買いつけも終わったが、肝心の店舗は、旭川に戻ってから考えたという。
「何も決めずに、とりあえず買いつけに行ってしまって(笑)」
浜辺さんは、偶然通りかかって見つけたという旭川市郊外の空き店舗に決めた。
「毎日の生活のなかで立ち寄れる場所にしたかったから」と、まちなかではなく、あえて住宅街のなかに店を開きたかったという。
「内装は、ほとんど自分たちで行いました。材料も友人の現場で余ったという端材をもらってきたりして」と浜辺さんが言う通り、素朴な内装の店内がナチュラルで、かざらない雰囲気をつくり出している。
店内にはナチュラルな木の家具を中心に、陶器の照明やオーナメント、マリメッコのファブリックなどのインテリアや、キッチン雑貨が並ぶ。
「例えば、写真でも気に入ったものが飾ってあるだけで生活が楽しくなることってあると思うんです」と浜辺さん。Lessの商品は、浜辺さんが暮らしのなかで使ってみたいと思ったものだけをセレクト。海外の骨董市で見つけてきたものあれば、大手海外メーカー、国内のつくり手のものもある。
世界中で愛されているフィンランドのメーカー「イッタラ」のお皿やマグカップの隣に、日本のステンレス製品製造のメッカ・新潟県燕市でつくられている「SUNAO」のカトラリーが。また、徳島県の「宮崎椅子製作所」が手がけたテーブルの上には、戦後の北欧デザインを牽引した、陶芸作家スティグ・リンドベリのデッドストックのコーヒーカップが何気なく置かれていたりする。
「ひと目みて、いいなと思った商品はだいたいストーリーを持っているんです。長く愛されるデザインのなかに使い易さを追求したものだったり、職人技術の挑戦とこだわりだったり。実際に、その背景を聞くと、ますますその良さを確信します。そんな風に出会った時の感動を、お客さんに共感してもらえたときはものすごくうれしいですね」
そのためにも、浜辺さんは全国津々浦々、つくり手のもとを訪ねては買いつけを行う。熊本県の「小代 瑞穂窯」の福田るいさんや、鹿児島県の陶芸家・木戸雄介さんにも直接会いにいった。いまのライフスタイルに合う器をつくり続けている彼らの世界観に改めて惹かれたという。
「僕は、ここは豊かな自然があって、暮らすにはとても恵まれた環境だと思っていて。だから、もっとこのまちの暮らしを楽しんでほしい。例えば、高価なブランドバッグ+ユニクロという組み合わせではなく、お気に入りの器+テーブルで食卓を囲むほうがより楽しく過ごせると思うのです」
そんな風にここでの暮らしを少しだけ楽しくするものを日々探している浜辺さん。つくり手たちがこだわったストーリーを実際の体験から教えてくれるから、説得力もある。それはいつも浜辺さん自身の根底に「暮らし、使う」ことが想定されているからだろう。
実は、浜辺さんは、1年半前に自分が生まれ育った、東川町にもカフェが併設されたショップ「Less Higashikawa」をオープンした。衣食住の「住」に重きを置いている旭川店と比べると、「衣食」がメインとなるお店だという。その様子は、後編で。
『コロカル』では、Lessでも取り扱いのある独楽をつくる、旭川の木工芸 笹原を訪ねました!
その模様はこちらからどうぞ。
文・塚原加奈子 写真・渡邉有紀